「まあ、マスタリングで直してもらえるよ」。そんな言葉を聞いたことはありませんか?もしかしたら、自分で口にしたことがあるかもしれません。この記事では、「ミックスの問題はマスタリングエンジニアが解決してくれる」という話が本当かどうかを、ミックスとマスタリングの違いから考えていきます。
マスタリングで何を「直す」のかを分解して考えると、この疑問にも答えやすくなります。そのために、音楽制作におけるマスタリングエンジニアの役割、マスタリングとは何か、そしてよくある誤解を順に見ていきましょう。
宅録時代だからこそ知っておきたいマスタリング
今の音楽業界では、制作から配信、プロモーションまで、ほとんど(あるいはすべて)を自分でこなすミュージシャンやプロデューサーが増えています。ソロアーティストにとっては大変な作業ですが、多くの場合、音楽への情熱がその原動力になっています。
ただ残念なことに、音楽制作の知識が十分でない人も少なくありません。そのため、競争の激しい業界で個人アーティストとして評価を築くのは簡単ではありません。マスタリングを自分でやるにしても、予算をかけてプロに依頼するにしても、マスタリングとは何かを理解しておくことが大切です。
マスタリングエンジニアの役割
マスタリングは、時代とともに音楽制作に欠かせない工程になってきました。もともとは、レコーディング、ミックス、マスタリングを同じ人(または同じチーム)が担当していました。しかし今では、音楽制作の中でも専門性の高い、独立した工程とされています。
マスタリングエンジニアは、アーティスト本人やミックスエンジニアから最終的なステレオミックスを受け取り、さまざまな処理を施して、バランスの取れた素晴らしいサウンドに仕上げます(ステムでの作業に対応してくれるエンジニアもいます)。
地味に聞こえるかもしれませんが、マスタリングエンジニアは音響調整を施した理想的なリスニング環境を整え、非常に高品質なモニタースピーカーや機材をそろえて、最高のクオリティを追求しています。さらに、何千時間もの経験に裏打ちされたプロとして、楽曲に大きな価値を加えてくれます。
マスタリングエンジニアが最終ミックスをもとに作業することがわかれば、先ほどの疑問にも別の角度から答えられます。つまり、クオリティの低いミックスをマスタリングに出しても、ミックスの根本的な問題が解決されることはまず期待できません。この観点から言えば、答えは「ウソ」です。
えっ、どういうこと?と思った方もいるでしょう。もう少し掘り下げてみましょう。
マスタリングでは何をするの?
マスタリングの技術的な側面では、さまざまな処理を使ってミックスのバランスの問題を整え、その曲ならではのサウンドの魅力を引き出します。その手法はエンジニアによってさまざまですが、共通のゴールは「楽曲をできるだけ良い音にし、市場で勝負できる音量に仕上げること」です。マスタリングチェーンで使われる処理には、EQ(カットとブースト)、コンプレッサー、サチュレーション、ステレオイメージング、エキスパンダー、リミッターなどがあります。
もう少し詳しく言うと、この段階で行われる処理は、「ダイナミクス」「周波数(スペクトラル)」「テンポラル」の3つに分けられます。制作の知識があまりない方も、この言葉に身構える必要はありません。分解してみればシンプルで、スキルアップに役立ちます。
- ダイナミクス処理:名前のとおり、ミックスの一番小さい部分と一番大きい部分の音量差(ダイナミックレンジ)をコントロールすることです。コンプレッサー、エキスパンダー、リミッターを使って行います。
- 周波数(スペクトラル)処理:難しそうに聞こえますが、楽曲の周波数を調整して、バランスが良く心地よく聞こえるようにすることです。
- テンポラル処理:ここでは楽曲のステレオイメージを指します。高度なEQ(ミッド/サイド)、ステレオエンハンサー、マルチバンドのステレオイメージングなどを使って、広がりと奥行きを加えます。
要するに、最終的なステレオミックスに、これらの処理を(多くの場合ごくわずかに)施して、音が良く、音量も十分なプロ品質の楽曲に仕上げるのがマスタリングです。
ミックスとマスタリングの違いとよくある誤解
最後に、謎に包まれがちなマスタリングについてよくある誤解を見ておきましょう。まず何より大事なのは、「良いマスタリングでも、ダメなミックスを素晴らしい音にすることはできない」という点です。これがもうひとつの観点からの答えです。つまり、マスタリングで直すことはできません。
マスタリングはミックスにあるすべての要素を強調します。そのため、自信のない部分や気に入らない部分があれば、それが以前よりも目立ってしまう可能性が高いのです。マスタリングエンジニアは、アーティストの表現の本質を変えることなく、楽曲をできるだけ良い音に仕上げたいと考えています。だからこそ、送る前に最終ミックスに納得していることが重要です。
まとめ:答えは「ほぼウソ」
結論として、この記事のタイトルの答えは、基本的には「ウソ」です。ただし、ミックスを整えてもらうことや、特定の問題のある周波数を見つけて対処してもらうことを期待しているのであれば、答えは「本当」です。ミックスの大きなミスをマスタリングエンジニアが直してくれると期待しているなら、がっかりすることになるでしょう。ミックスは修正のアドバイスとともに返ってくるはずです。
マスタリングは音楽制作の重要な工程ですが、良いマスターを得るための責任は、実は自分自身にあるのです。マスタリングに出す前、あるいは自分でマスタリングする前に、ベストを尽くして最終ミックスに納得できているかを確認しましょう。
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